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アクアアルタ ヴェネチアと水

ヴェネチアと水

アクアは水のこと、アルタは高いという意味である。

これは、私が2012年に撮った写真だ。

2018年にヴェネチア を去るまで6年間、アクアアルタの回数は増え続けた。

大きな通りには、アクアアルタの季節になると、この重い台が置かれ、水が出てくると広げられる。

長靴のない観光客は、簡易長靴を買って、アクアアルタの中でも観光を楽しんでいた。

2019年11月には、記録史上2番目に高いアクアアルタが押し寄せた。

高さは140cm。

お店のこんな対策では、とても防ぎきれない高さだ。

ヴェネチアで暮らす間、水のことをよく考えた。

足下に流れる水と、ペットボトルに入って売られている水。

下水をのせたくさーい船。

そこに混じる甘ったるいような、化学薬品の匂い。

お皿や床やトイレを洗った洗剤も、アクアアルタになれば、全部運河に流れ出す。

それを飲んだ魚を食べて、その魚を食べた鳥も食べて。

人間は絶対に口にしたくないような、化学物質を垂れ流して、動物に飲ませて、自分たちの飲み水だけはパックにつめて飲むっていう私たちは、何様なのだろう?

最近はロックダウンで水が綺麗になったというけれど、私が見ていたのはこういう水。

その中に泳ぐ小さなお魚たちが見えるだろうか。

アクアアルタで本当に被害を受けてるのは、人間ではなくて、海の生き物の方だ。

床を吹いた洗剤も、ゴミも、有害な化学物質を、魚は飲んでいる。

手が荒れないように、いくらゴム手袋をしたって、こうして漂白剤を垂れ流し、それを摂取した魚を、私たちは食べているのだ。

アクアアルタの後は、どこの店も漂白剤をガンガン使って掃除していた。

それがまた、次のアクアアルタで流れ出すだろう。

海の都の物語

塩野七生の「海の都の物語」は、歴史物でありながら、小説のような面白さだ。

ヴェネチアがただの沼地だった5世紀から、1000年以上の歴史が描かれている。

その中で描かれた「水の行政官」(Magistrato alle Acque)についての記述は、有名である。

ヴェネチアは水の上に人工的に作られた人工都市である。

古代から、ヴェネチアの市民は水をコントロールする必要があった。

水が押し寄せても、スッと流れて、また外に出て行ってくれれば問題はない。

だから街中に水路があり、水を逃している。

しかし、この水のコントロールがうまくいかなければ、アクアアルタに見舞われ、また水が滞れば、伝染病などが蔓延する。

そのため水の行政官の責任は重大であった。

水の行政官の就任式には、民衆の前に立たされ、元首はこう宣言した。「この者の功績をほめたたえよ。ふさわしい報酬を与えよ。しかし、この責任重い地位にふさわしくないとなったら、絞首刑に処せ!」

命をかけて使命を果たすことを、市民の前で約束させたのである。

現在、いくつかの水路は埋め立てられて、歩ける大きな道となり、土産物屋で賑わっている。

ヴェネチアに行った人なら必ず通る Strada Nova(ストラーダ・ノーヴァ)は、「新しい道」という意味で、19世紀に水路を埋め立てて作られた。

道を作ることで、隔てられていた区域を活性化することや、鉄道が開通したことで、利便性を優先させたのだ。

しかし、水の流れは、格段に悪くなったのではないだろうか。 リンク

潮の満ち引きと、運河の大掃除

アクアアルタの原因の一つはまず、高潮である。

月の満ち欠けに伴い、潮が満ちたり引いたりするのだ。

しかし、これだけではヴェネチアは浸水しない。

逆に、昔はこの満ち引きを利用して、下水を流せる時間が決まっていたという。

潮が引く前に下水を流すことで、汚れた水が外に出て行ってくれるのだ。

潮がひいてからまた入ってきた水は綺麗なので、子供たちが水路で水遊びをしたという。

また、何年かに一度、潮が引いたタイミングで水路をせき止め、水を抜いて掃除をしていた。

普段は見えない水底から、冷蔵庫やテレビが出てくることもあったという。

しかし、近年はモーセ計画などに予算を使い、この水路の掃除が何十年もされていないという。

モーセ計画

これについては、私も本当のことは知らないので詳しくは書けないが、仕組みはこうだ。

天板のような板をヴェネチアのラグーンの周りに平らに設置する。

アクアアルタが予想される時、この天板を跳ね上げ、防波堤を作るのだ。

旧約聖書の中で、聖人のモーセが海を切り開いて道を作り、海の向こう側に渡った伝説から名前を取った。

しかし、どうもこの計画はうまく行っていないようである。

少なくとも今のところ、ヴェネチアのアクアアルタは増える一方だ。

出典 Wikipediahttps://it.wikipedia.org/wiki/Statistiche_dell%27acqua_alta_a_Venezia#Frequenza_decennale_delle_maree_%E2%89%A5140_cm

地球温暖化

潮の満ちた時、水位が異常に高くなると、ヴェネチアが浸水してしまう。

では、なぜ水位がそんなに高くなってしまうのだろうか。

ヴェネチア の周りには島が堤防のように広がり、その内側の、ヴェネチアを囲む海はラグーン(潟)と呼ばれている。

シロッコというアフリカから吹く風が吹くと、ラグーンから海へと流れる部分の水の流れをせき止める。

そうすると、動けなくなった水が、ラグーンの中で溢れてしまうのだ。

通常、このアクアアルタは、秋から春にかけての寒い時期に起こっていた。

しかし近年は、アクアアルタは季節に関係なく、一年中、頻繁に起こるようになっている。

これは、地球温暖化による海面の上昇や異常気象が関係すると言われる。

ヴェネチア沿岸の海域は、この30年で23cm上昇したという計測結果が出ている。

地盤沈下

海が上がるだけでなく、ヴェネチアの方も下がっている。

1950-1970年の間に、ヴェネチアの地盤は12cmも下がったという。

海面が上がった23cmと足すと、実質35cmも低くなったことになる。

主な原因は、近くの工業街ポルト・マルゲーラで工業用水として大量の地下水を汲み上げたことである。

私も原理はよくわからないが、地下水というのは海の水とは違うらしい。

ヴェネチアの地盤は、柔らかいスポンジのようなものなので、水分が減って縮んでしまったのだ。

近くの別の島は、岩の上にできているので沈下しなかったという。

まとめ

以前の当ブログの記事「ヴェネチアのこれから」にも書いたように、ヴェネチアの市民は、観光への依存と嫌悪のパラドックスの間で、揺れてきた。

ヴェネチアは観光で生きる街であると同時に、観光客によるヴェネチアの破壊も起こるからである。

我々は、海の都ヴェネチア を観に行き、その美しさを堪能する。

しかし、そこに生きる市民の生活を尊重すると共に、ヴェネチアの環境にも配慮した観光が必要である。

ヴェネチアでペットボトルを大量に買って、そこら中に投げていくのは観光客である。

水の街にくるのに、水への敬意が見当たらない人がいる。

水を汚し、旅行に伴うゴミを大量に出すことは、せっかく観にきたヴェネチア を根本から破壊する。

今回、ロックダウン中に、観光客のいないヴェネチアの水は綺麗になったという。

こんな風に小魚が見えたことは、私が暮らしていた6年の間には一度もなかったと思う(注:イルカはサルデーニャの海のビデオ)。

ヴェネチアの海沿いで、アクアアルタに遭遇したことがある。

膝まで水で覆われ、どこまでが通路で、どこからが海なのか、全くわからなかった。

灰色の海が、風に押されて、押し寄せてくるのがわかった。

どこまでも飲み込まれてしまうと思った。

現在の消費社会の現状では、ゴミが浄化されるなどという幻想は通じない。

そんなことを考え続ければ、いつか我々人間が海に飲み込まれ、「浄化」されてしまう。

ゴミをなるべく出さず、CO2を出さない生活に変えていかなければ、ヴェネチアにも日本にも、未来はない。 リンク

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